本の森013 舟を編む 三浦しおん(光文社文庫)

経営者、リーダー、教師、コンサルタント必携の小説!

 

以前、同じ作家、三浦しおんの「光」という作品について書いた(https://3rd-stage.jp/archives/638)。

その感想の中に、僕は、こんなことを書いた。

僕たちの知らない場所で、誰かが傷ついてる。
あるいは、誰かを傷つけてる。
気づいているのに、気づかないふりをしてしまうことって、ある。

そして、その「光」の次に書かれた作品が、この「舟を編む」だった。
この作品に、こんなくだりがある。

(舟を編むより引用)
言葉の持つ力。
傷つけるためではなく、だれかを守り、だれかに伝え、
だれかとつながりあうための力に自覚的になってから、
自分の心を探り、周囲の人の気持ちや考えを
注意深く汲み取ろうとするようになった。
(以上、引用)

 

僕も、言葉を使って仕事をしている。
もちろん、言葉を使わない仕事なんてほとんどないけど、
でも、僕は仕事をする上で、言葉というものを、
とても大切にしている。

僕はこれまで、コンサルタントという仕事を通じて、
経営者を始め、現場の社員やリーダーたちに、
言葉で語りかけ続けてきたし、これからもずっと、
言葉を選び、言葉で語りかけ続けていくからだ。

そして僕はさらに、
本を書くという仕事を通じて、言葉を紡ぎ出し、
不特定多数の人に、言葉で語りかけようとしてきた。

だから僕は、言葉を大切にしたいと思っている。
でも僕は、いつも自分にこう問いかけてきた。

「本当に、その言葉でよかったのか?」と。

 

「舟を編む」にはまた、このような言葉が記されている。

(舟を編むより引用)
有限の時間しか持たない人間が、
広く深い言葉の海に力を合わせて漕ぎだしていく。
こわいけれど、楽しい。やめたくないと思う。
真理に迫るために、いつまでだってこの船に乗りつづけていたい。

 

言葉は、言葉を生みだす心は、権威や権力とはまったく無縁な、
自由なものなのです。また、そうであらねばならない。

言葉はときとして無力だ。

語り合い、記憶をわけあい伝えていくためには、
絶対に言葉が必要だ。

死者とつながり、まだ生まれ来ぬものとつながるために、
ひとは言葉を生みだした。
(以上、引用)

 

まるで、作者の魂の呼び声のような言葉だと、
僕はそんな風に感じながら読んでいた。

この本を読んで、僕は改めて言葉を生業とする仕事の責任と、
楽しさと、果てしのなさを思い知らされた。

もちろん、この本はそんな重々しい本とは対極にある。
そう、読み進めると止まらない、そして眠れないほど楽しい、
エンターテイメント小説だ。

 

この本の主軸は、辞書の編纂だ。
僕たちは、辞書の編纂という仕事を生きる主人公たちを通じて、
仕事や人生や恋愛や生き方や、そんなたくさんのことを学び、
体験することができる、そんな小説だ。

この本に出会えたことを、僕は幸せに思う。

 

最後に、敬愛するドラッカー氏の言葉を紹介する。

 

経営管理者は言葉を知る必要がある。
言葉とは何であり、何を意味するものであるかを知らなければならない。
そしておそらく何よりも、人に与えられた最も貴重な能力としての言葉を
尊重することを学ばなければならない。経営管理者は、話し言葉や
書き言葉によって人を動機づける能力がなければ成功しえない。
「現代の経営(下)」P・F・ドラッカー

 

舟を編むという小説は、
すべてのリーダーに読んでほしい、最高の小説だと、僕は思った。

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